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| 赤城の冬は、何といっても〈空っ風〉である。遥か上越国境の山々から利根の谷間を吹き下がってくる風と、標高1800メートル余の赤城山から吹き降りる風が、広々と展がる赤城の裾野で合体し、太いうねりの烈風となって、渦巻きながら吹き荒ぶ。 時にはどこからか雪を巻き込んできて、吹雪のように叩きつける。飛雪が目や頬にあたると、信じられないほどの痛さだ。 一般的には、風に運ばれて飛んでくる雪のことを〈風花〉と、雅びに表現しているけれど、この辺りでは飛雪の凄まじさに〈吹っ越し〉と呼び習わしている。この地にずっと暮らして来た先人達の、自然とともに生きる感性が生みだした傑作な表現だと、冬になるたび実感する。 今冬は埼玉の自宅で過ごしたので、空っ風にも吹っ越しにも身体を曝すことはなかった。が、そのかわりに埼玉の〈土砂風〉の洗礼をうけた。 正直、埼玉の風には閉口した。とにかくどうしようもない。群馬の吹っ越しは雪まじりだけれど、埼玉のは土砂混じりだ。 自宅の周囲はまだまだ畑が多い。この辺りはお茶と芋(サトイモやヤツガシラ)の産地。茶畑は常葉樹の茶の木が植わっているからいいのだが、芋畑は収穫が終わると耕運し、更地にして畑を休ませている。 畑の土は黄茶色の細かく軽い砂質で乾燥している。この砂が強い季節風で舞い上がり、人といわず、家といわず、どこにでも狂ったように吹きつける。まるで砂嵐のように凄まじい。数メートル先がまったく見えないなんてこともザラにある。 ![]() |
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春の初めのころにはいつも話題になる中国からの黄砂。自分は黄砂が舞い上がり吹っ飛ぶ様をまだ見たことはないけれど、ここの〈土砂風〉をみていると、何となくその様子がわかるような気がする。 (ああ、春がきた…)立春から数週間がたったある朝、そう実感した。 前夜からの雨もあがり、開けた窓から少し湿り気をふくんだ暖かっぽい空気が流れ込んできてとても心地よい。 しっとりとした空気の暖かさと、賑やかな小鳥の声に誘われ、サンダルをつっかけ、庭にでる。何気なく見上げた空は、淡いミルク色の霞がかかったやわらかなブルー。今日の上天気を予感しながら、思いきり両手を突き上げ、大きく伸びをする。と、あたりに漂う花の香りに気が付いた。 周辺を見回すと…ある、ある。あちこちでいっぱい花が咲いている。白梅、紅梅、レンギョウ、マンサク、そして椿。山茶花はまだ名残りの花がついているし、ボケの蕾もずいぶんふくらんでいる。足下には、沈丁花、クロッカス、パンヂーにスミレ、水仙。そして花名不詳の白や黄色や青の小さな花々もそこかしこに咲いている。人間が早春の余寒に縮こまっている間に、いつの間にか木や草たちは早くも季節の巡りを感じとり、競い合うようにこんなにもたくさんの生命の花を咲かせていた。 この冬は季節としての冬だけでなく、自分の人生にとっても、「病」という強敵の出現で厳しい冬だった。しかし冬のあとには必ず春が巡るように、自分のこころにも春は巡ってきている。今ではもう病気とは距離をおいて対峠できるようになったし、いたずらに恐れたり、悲観することもない。 いま頭の中は畑と、畑に集う仲間たちのことでいっぱい。(早く畑に出たい!)という想いが日に日に強くなってきて、時にどくどくと音立てて血が流れる。体調もようやく元に戻り、今月半ばには懐かしい畑に帰れそうだ。 ルンズ・ファーム代表: 永澤 徹 |
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