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| 〈ウッギャー〉と、叫びだしたい衝動に何度もかられた。なにしろ高速道路から畑に続く道程はいつもと違って大混雑で、普段の倍ほどの時間がかかっていた。はやる心には、ずいぶん春めいてきた周囲の景色なんかまるで目に入らない。道中ずっと脳裏に浮かび続ける光景は、ただひたすらに懐かしいブドウ畑である。 街道から細い村道に入って数十メートル、道が緩く左カーブすると目前にブドウ畑が出現する。オオッとおもいながらなお進むと、やがて道の両側に広々と畑がひろがる。この数カ月ずっと想い続けてきた畑が、手の届く目の前にひろがっている。 3月12日朝。見上げる空は優しいブルー。穏やかに晴れて割合暖かい。 さっそく畑に入る。ブドウの樹々は整然と剪定され、剪定枝もきれいに片付けられている。芽はまだ固く冬の様子がそのままだ。しかし剪定で残された結果、母枝の細枝の多くがこころなし赤みを帯びていて、春の活動開始が近いことを示している。 視線を畑の上に転じる。と、そこにも懐かしい光景がひろがっていた。上州、信州、甲州、武州の山々が折り重なるように連なって、まるで一枚の巨大な絵画のようだ。その景色は相変わらず美しい。うっとりと見惚れた。 この畑と、この山々と、そして家族と仲間に支えられて、自分は今ここにいる。 (ああ、帰ってきた…)しみじみとした感動が胸一杯に満ちてきた。 畑にはボランティアのSちゃんが来ていた。自分が畑を留守にしている冬の間、このSちゃんをはじめ多くの仲間たちが畑を守ってくれていた。剪定も剪定枝の片付けもみんな仲間たちがやってくれた。静かに春を待つ畑には、仲間たちの足跡が無数に残っている。 ![]() |
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昼の食事時にはSちゃんから聞く、留守中の話が最高のご馳走になった。あんなことこんなことが聞いていてとても楽しい。日常の、べつになんてことのない話題なのだが、話のすべてが新鮮で面白い。 久し振りの小屋での一夜が明けて、翌朝からは早速、作業。晴れてはいるが北風が強くとても寒い。昨日とは大違いの天候のなかで、作業はプラソイラーかけ。 この作業は、トラクターの後部にプラソイラーという大きな三本の鉄の爪を装着する。畑の畝間に50〜60センチメートルの深さで爪を突き刺し、畝間に沿ってトラクターで土を引き裂くようにゆっくりと引いていく。すると、この爪には仕掛けがあって表土と土中の土の入れ替え(天地返しという)ができる。その際には同時に新鮮な酸素を土中に供給する。また表土の下にある硬盤を裂き崩し、溝を切っていくので排水を容易にする。この作業は硬くなった土をほぐし、土中微生物を活性化させる大事な作業だ。 数カ月振りに畑に出て作業する自分を見かけて、近所の人々が様子を見に来た。話を聞くと随分と心配していただいたようで有難かった。これまで道で会えば時候の挨拶程度のお付き合いだったが、今度は一段とご近所の絆が深まったように思う。 「最初は無理をしちゃいけないよ」と皆に言われているのだが、そして自分でもそう思っているのだが、なかなかそうはいかない。一旦畑に出てしまうと(あと一列、もう一列…)とキリがない。結局、正面の榛名山に陽が落ちて薄暗くなるまでやってしまった。さすがにちょっと疲れた。 冷えた体を暖めに村の温泉に行った。久しぶりに会う人々が変な顔をしている。実は今、私の顔には髭がある。思うことあって髭を剃っていないのだ。髪ものびてグシャグシャ。 「偉くなったのう。乃木大将みたいだで」 「マラソンの小出監督に似ているよ」 年代によって評されかたが違う。でも幸いに、一番恐れていた「似合わない!」の声がないので内心、ホッとしている。 ルンズ・ファーム代表: 永澤 徹 |
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