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| (フゥ〜ゥ暑いッ!)ヨタヨタと水道に駆け寄り、蛇口まで飲み込んでしまうような勢いで一気に水を飲む。それでも喉の乾きはおさまらない。このところ連日の猛暑だ。温度計をみると37度を超えている。 「梅雨の晴れ間…」、「梅雨の中休み…」がずっと続き、雨らしい雨はすでに2週間近くも降っていない。 例年通りであれば、あと十日ちょっとで梅雨明け。梅雨末期にはいつも激しい雨が降る。今年は今まで降っていない分もきっと一緒に降るだろうから、大雨災害の可能性がある。しっかりした対策が必要だろう。 そんな暑さの中、ブドウ畑を拓く話でT市に出掛けた。 じっとしていても汗が噴き出す。指先から滴った汗が、焼けたアスファルト農道に黒いシミを拡げている。 あまりの暑さに見上げる夏の空には、太陽が真っ盛りに燃え、その反動のように地表には陽炎が喘ぐように揺らめく。 市街地の北に広がる丘陵地帯。緩い北向斜面と南向斜面が折り重なって造り出す、広々とした長閑な田園風景がとても印象的だ。 (ここならできる!)そう思った。 この場所に来る前、T市役所のロビーに5人が集まった。そのうち2人は初対面の農家の方。有機農法で米や野菜、コンニャクなどを生産している。 ロビーの椅子に落ち着くとすぐ、5人のうちの一人Sさんからコピーを見せられた。それはA4判程の大きさで十数枚が綴じてある。 チラッと目を通したが、眩しい外から入ってすぐの眼には、しかも眼鏡なしの眼では、何が書いてあるのかほとんど読み取れない。 ![]() |
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Sさんの説明が始まった。 明治5年、日本近代産業の先駆けとして官営の製糸場が操業を開始した。これを期に日本は良質シルクの大量輸出国となったが、この事業を興すにあたってフランス人設計士や技師等の力を借りた。 ここにあるコピーはそのうちの一人が残した日記だという。 Sさんがページを繰って朱線の引かれているところを指さした。 見ると細い硬質の毛筆かペンらしき筆記具で、漢字とカナ文字で整然と書かれている。(このフランス人は日本語を書けたのかなぁ)そんな素朴な疑問がヒョイと浮かんだが、それを口にするのは憚られる雰囲気だったので、黙っていた。 『葡萄』、『葡萄酒』という字がふんだんに出てくる。要約すると、こうだ。 このフランス人は、はるばる日本に来てT市の地を踏んだ。あたりを眺め回すとゆったりとした丘陵地帯に野菜畑や桑畑が広がっていた。しかし期待したものが、ない。もう一度よく見たがやっぱりない。 彼の地では当たり前のようにあるブドウの畑が、ここにはなかった。 T市での生活にも慣れ、気象や土壌のことが肌でわかってくると、彼の考えは確信になった。そして日記に書いた。 『ここは葡萄を栽培すべき地である。そして葡萄酒を醸造すべきである』と。 しかしブドウ畑は出来なかった。 歴史に「…れば」とか「…たら」は無いけれど、思う。 もしもその当時に、彼のフランス人の指導で『葡萄』を栽培し『葡萄酒』を醸造していたら、この国のワインづくりはもっと違うものになっていただろうに。 それよりもなによりもブドウ畑ができれば、故郷を遠く離れたフランス人たちの異国での寂しさを、少しでも癒してあげることができただろうに…。そう思うと残念でならない。 フランス人がきっと万感の想いで日記に記したであろう明治のその日から、百数十年を経た平成の今日、ブドウ畑が実現するかどうか、は分からない。 ルンズ・ファーム代表: 永澤 徹 |
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