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 畑に五回目の春がきた。
 見渡す山々は真っ白で、野や林にもまだ雪がたっぷりあるが、空の色、土の匂いに 春はもう確実にやって来ている。
 村の温泉に行く道すがらの梅林の風情が、今、実に良い。日脚がのびて穏やかな薄 暮のなかで、其処ここに白梅が花開いている。まだ二部咲とはいかない儚さで、軽ト ラを道の傍に寄せ、ぼんぼりのように淡く咲く花を、ボーと眺めるひとときがとても 心地好い。時に赤城下ろしの空っ風が吹き荒ぶと、小さな花がちぎり飛ばされるかと、 心配でならない。
 畑では雲雀のさえずりが勢いよく聞こえる。鳴き声を追い、作業の手を休め、空を 仰いでも、どこにいるのか姿は見えない。雲雀が高く飛ぶときは好天気というが、か なりの寒さが残るいまは案外低い空にいるのだろうか。
 この冬は雪の日が多かった。そのせいか寒さが身にしみる気がするが、調べてみる と意外なことに最低気温はそう厳しくない。今冬の最低記録はマイナス10度で、例年 数日はあるマイナス14度とか15度はなかった。
 いつだったか村の温泉で誰かが言っていたが、今年の冬は「暖冬多雪」とか。なか なか当を得た表現だと、自分は感心して聞いた。
 赤城村の温泉は湯の良さだけでなく、学びあり笑いあり人情ありのなかなか味わい の深いところである。この村に住むようになって早や五年。小屋に風呂をもたない自 分は毎日この温泉に浸って、汗を流し、疲れをとりながら、村の歴史や自然の移り変 わりと農作業との兼ね合いなどを耳学問させてもらった。
 石の上にも三年…というけれど、五年も経つとたくさんの人と知り合う。それはあ る意味、自分が此処で生きてきたひとつの証でもある。ひとり、ふたりと面影を浮か べながらあらためて数えてみると、もう両の指ではとても足りない。職業や年代も様々 だ。

赤城の食卓  最近そのなかのおひとりが本を出された。内容は野の花の絵と詩で構成されている。 よく観察された野花が著者の感性を照らして活き活きと息づき、優しい色づかいと独 特のタッチがほのかな懐かしさを誘う。詩は、著者の折々のこころを映した言葉がそ のまま素直に綴られている。愛らしい野花と共感できる詩がうまくバランスされ、こ ころ癒される本である。
 開拓小屋での一人暮らしにはもう慣れたが、どうしても味気ないのは食事。小屋の 窓から見える雄大な夜景を一人占めでの食卓はまあいいのだが、冷凍食品主体で変化 の乏しいメニューに加え、会話のない一人食べの食事が続くとストレスが溜まる。そ のストレスを癒してくれるのが、近くにある寿司屋さんと蕎麦屋さんだ。
 近くにあると云っても町中と違い、歩いてというわけにはいかない。赤城に来たて の頃、雪の日に歩いていって、帰りの夜道が吹雪になり、ここで遭難するかと思うほ ど難儀した。自分は山歩きが好きで、若い時分から厳冬の山にも数えきれないほど登っ ているが、雪で遭難しそうになったのはこの時が初めて。それ以来ぜったい歩いては 行かない。
 お寿司屋さんは、オーナーの「区長さん」と奥様、息子さんの「若大将」で切り盛 りしている。「区長さん」は自分がこの村に引っ越してきたときの行政区の区長さん で、以来、今日に至るまでずっとお世話になっている。
 若大将がつくる刺身と寿司は最高に旨い。このお店で初めて食べた時は、赤城のこ んな山の中で…と心底驚いた。この人はつくづく魚扱いの名人だと思う。
 お蕎麦屋さんは「大将」と「オカミサン」とアルバイトの人がいる。みんな気さく な人達だ。このお店の蕎麦は畑を探して赤城の山麓を右往左往している頃から食べて いた。大将の打つ蕎麦は素朴だがどことなく洗練されていて、季節ごとの風味がある。
 こういうお店と、たくさんの心優しい人々が自分の日常を支えてくれている。本当 に有難いことだ。

ルンズ・ファーム代表: 永澤 徹

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