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 今朝の畑は、深い霧のなかに埋まっている。
 いつもは畑の真ん中で、ぶどうを従え屹立する大椚も、その存在がおぼろにしか見分けられないほどの濃霧だ。
「梅雨入りした」と、気象庁が発表したとたん、降るでもなく照るでもない暑い日々が続いて、やがて、一陣の風に、畑のあちこちで、乾いた土が野火のように舞い上がった。
 それでも、とつぜんに、ほんの短時間、雷鳴とともに激しい雨が降るということが時折あって、小屋に戻るのが間に合わぬときには、滴が垂れるほど作業着を濡らしてしまう。
 それは夕立のようなものかとも思うけれど、朝のこともあるし、昼のこともあるし、夕のこともあって、そして考えてみれば、とても〈夕立〉といった風情ではなく、まったく、天の癇癪としか思えない。
 そんなある日の昼、思いがけない虹を見た。
 美しい色彩に輝くその虹は、いつもの虹とは逆の弧を描いていた。
 その日はめずらしくすっきりと晴れて、青い空がひろがり、真夏のような太陽が燃えていた。その高い西の空に、氷魂のように白く無気質に澄んだ雲が一片、浮かんでいて、虹は、その雲に架かった。
 これまで数えきれないほどの虹を見てきた。
 新緑の山を台座にして、天空にかかる虹。紅葉の山を背景に、降りつのる雪にかかる虹。
 そのどれもが、美しい虹であった。
 しかしこの虹は今までとはまるで違う。
 広いぶどう畑を、つつむようにひろがる大きな空。緑の畑と青い空の間に、縹色の榛名山が聳え立つ。真っ白な雲。その雲に、逆さの弧を描いて架かる、七つの色彩に輝く虹。圧巻であった。
 虹は長い時間架かっていた。
 眺めていて、ふと、思った。
(この虹は、吉兆ではないか・・・)

吉兆虹に願う  自分には、今、直面している課題がある。
 ぶどうの苗木を植えてからずっと、家族や仲間に扶けられ、おかげで、さして大きな問題や悩みをかかえることもなく、ひたすら畑に没頭し、早く苗木が成木となって、たくさんの果実を収穫できる日を夢見てやってきた。
 五年がたち、ぶどうの木々もたわわな実を結ぶようになって、収穫の夢が現実になった。
 すると、解決すべき大きな課題が生じた。
 ルンズのぶどうはすべて、ワインをつくるために育てている。
 ワインとは、発酵したぶどうの果汁であり、アルコール飲料、お酒である。
 お酒は造るのにも売るのにも免許が必要。
 今、直面している大きな課題は、この免許の取得についてである。
 当初は、自分はぶどうを栽培するのみで、醸造はしかるべき醸造蔵(ワイナリー)に委託しようと考えていた。
 しかし、ぶどう農家として経験を積むなかで、ぶどう栽培と醸造には、決まった方式はなく、その年その時のぶどうの様子で、ぶどうにあわせた醸造をしなければならないことに気がついた。ワイン用のぶどうの栽培は、醸造までやってこそ、完結することがわかったのである。
 早朝、まだぶどうが冷えている間に、摘みどきの果実のみを摘み、そのまますぐに仕込むことが、それまでのぶどう栽培の工夫と努力をいかすことになる。
 そのためには、畑の近くに自前の醸造蔵をもたねばならない。
 醸造蔵と醸造免許を手にするには、相当の力を必要とする。
 自分の人生にとって、必ず乗り越えねばならない、大きな課題だろう。
 自分とぶどうは二人三脚。日々、一所懸命に生きている。
 相方の健気なぶどうに報いるためにも、ここはしっかり踏ん張って、あの虹をもう一度見ねば。

ルンズ・ファーム代表: 永澤 徹

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ルンズ通信は「渡良瀬通信」で連載中です。
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