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 赤城の夏は、いまや真っ盛りである。ルンズの畑も、五回目の夏を存分に享受している。
 桔梗が咲き、オミナエシが咲き、百日紅が咲き、トンボが群れて飛んでいる。周囲の木々では蝉がうるさく鳴き競う。夕方になって、ぶどうの影が少し濃くなるころには、カナカナがけたたましい鳴き声を張り上げる。
 畑のそこここに巣をかけて、子育てをしていたヒバリやシジュウカラたちも、立派に雛を育てあげ、子らとともに巣立っていった。
 そういえば、ついにこの間まで畑で遊んでいた、野ウサギの親子の姿が見えない。涼しい林のなかにでも住まいを移したのだろうか。
 ぶどうの中にそっと歩み入る。とても静かだ。ときおり吹きわたる風に、サワサワとぶどうの葉がそよぎ、その葉擦れの音がこころをなでるように優しい。
 ぶどうの木は、人の目の高さをこえて成長し、たわわな果実を擁して、はちきれるような生気と緑に満ちあふれている。
 見上げれば、澄んだ青い空の一角を、チカラコブの積重ねのような入道雲が、白く輝きながら躍動し、やがて雲は空の三分の一になり、間もなく半分を占めた。
 作業の手をやすめ、雲の動きを飽かず見上げているうちに、(楽しい夢…)をみた。
 自分が、畑のなかからスポンと翔んで、孫悟空のように大空をかけめぐり、巨大な筆を振りまわしている。どこまでもつづく青い空に、真っ白な絵の具を塗りたくって、大声あげて笑っている。ぶどうの緑に染まりながら、いっとき爽快な気分を味わった。

5年目の秋、だ。  標高560メートルのルンズの畑は、直接あたる陽のきつさはかなりのものではあるけれど、大気は乾き、風はつねに吹き渡り、心地好いことこのうえもない。
 しかし、きらめく夏も束の間。八月の旧盆を過ぎれば、朝晩秋風がたち始め、短い夏は足早にすぎていく。
 自然の四季の営みは、歓喜と未練と感傷と感動を振りまきながら、宇宙の理として整然と巡る。
 この秋は、待ちに待った五年目の秋だ。
 五年前の春に植えられたちいさな苗木は、すくすくと育ち、葉の色つやもよく、大きな病気にもあわずに、いまや幼児の腕ほどの太さにまで成長した。
 このぶどう達は、赤城の大地の、自然の土がもつ、秘められたチカラ、可能性を、極限まで引き出したいと考える私の方針で、満足な肥料も与えられず、冬ともなれば、必死に伸ばした根さえも切られてしまう。よくぞここまで育ってくれたと、頭が下がる。
 言ってみれば、人間の身勝手さのおかげで苦労しているぶどう達だが、しかし、元気はとても良い。
 結実の状態もいままでにない最高の出来だ。量も多い。たぶん昨年の三倍は…と心中笑みがひろがるが、今後のことを考えれば、これは(とらぬタヌキのなんとやら…)だ。
 収穫までにはまだ相当の期間がある。すでに一部が色づきはじめたぶどうもあるけれど、大半は、小さめの真珠玉大かパチンコ玉大の、青く固い実だ。
 これらの実が、色づき、熟し、収穫されるまでには、これからさまざまな障害が待っている。
 台風、秋の長雨、熟した果実に群がる鳥や獣や虫。そのほか思いもかけぬできごとがあることだろう。
 (五年だ… 五年間だ… 五年目の秋だ…)
 と、必死になって頑張ってきたこの五年間。幼木が成木となって実を結ぶ始めての秋。障害なんぞに負けられない。
 幸い、ぶどうはすこぶる元気。畑の状態もいい。先月から若いスタッフも得た。ボランティアの人々もみんな元気で、変わらぬ支援をしてくれている。心配することは何もない。
 来月号のこの通信で、収穫の報告がはたしてできるだろうか。

ルンズ・ファーム代表: 永澤 徹

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