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 この冬もまた優しく軽やかな調べに、早朝の厳しい寒さを癒される日々がめぐってきた。ルンズ・ファームの厳冬の風物詩?水琴窟ならぬ氷琴窟である。
〈氷琴窟〉とは自分の造語(すでにあるかもしれないが…)で、細い水流の下に石や陶器を使って複雑な空洞をつくり、流れる水音を反響させて水琴(みずごと)のように美しい調べを奏でさせる仕掛けの水琴窟にたいし、水道の凍結を防ぐために出しっ放しにした水が、流し台とそれに続く放流管、さらにその下に続く浸透枡のそこここで凍結し、複雑な氷の洞窟状になって、水琴窟とおなじように美しい調べを生じさせるので、氷の琴音、氷琴窟と名付けた。
 氷琴窟に関しては、以前にもこの通信で報告したが、このところの例年にない寒さのなかで、常より1カ月も早く現出した、この心地好く響く水と氷の調べを、もう一度報告しようと思う。
 ルンズの開拓小屋の水は村営水道で、小屋の南の外壁際にある。水道は屋内にはなく屋外のこれ一個のみ。
 厳しい寒さの、まだ明けきらぬ早朝。携帯電話の目覚しでほどよく温もった布団から起きだし、水道の様子をみることから冬の一日の仕事が始まる。
 余談だが…
 携帯の目覚しがあって本当に助かる。なぜかといえば、普通の目覚し時計は、この時期当てにならない。小屋内の温度が零下四、五度になると時計が狂うのだ。セットした五時が、起きてラジオを聴いたら六時過ぎていてビックリしたことがある。
 進む、ということはないから、きっと低温のせいで機械の油などが固くなり、動きが鈍くなって遅れるのだろう。その点、今のところ携帯目覚しは正確。携帯の効用はこんなところにもある。

水と氷の競演、極上の調べ。  赤城の冬は寒いから、水道の元栓は地下の深いところに造られているが、それでも零下十度前後になると、元栓から凍ってしまう。
 元栓が凍ってしまうとその後水を出すようにするのはとても厄介。だから冷え込みがきつくなりそうな夜は、翌朝の気温の具合を予測して、蛇口からの流水量を加減しつつ細く水を出し放しにしておく。この水が一夜のうちに凍って氷琴窟になる。
 でも温度が下がれば必ず氷琴窟になるかといえば、そうでもない。前日の気温や風、出し放しにした水の量などが微妙に影響しているのだろう。太陽の輻射熱の影響も大だ。
 温とい布団から、いきなりドア一枚向こうの厳寒の外に行くのだから、まず、ガッチリと着込む。
 外に出るとキーンと冷気が全身を覆う。寒い。ここにきて血圧が少し高めの自分はこの瞬間が危ないと思って、そおっとそおっとからだを慣らす。
 見上げれば、夜明け前の群青の空に無数の星が揺れて光っている。
 畑の雪に星明かりが反射し、黒く影絵となったぶどう畑の向こうには、伊香保や渋川・高崎の夜景が、地の天の川のように輝く帯となってひろがっている。
 小屋を回りこみ、水道へ。
 なんとも言えない優しい心地好い音が静かに聞こえてくる。じっと耳をすます。足下の、ずっと深いところから聞こえてくるような、それでいて天上から聞こえてくるような。
 幼いころの川遊びで左耳の聴力を失い、音の方向がわからず、ふだんは時々不便を感じる自分の耳だが、この時ばかりは幸いして、楽しめる。
 しかしこの氷琴窟も儚い。
 陽が昇り空気が僅かに暖まると、氷の冷たさと水の温かさの調和が崩れ、たちまちのうちに今朝の水氷の調べは消えていく。 

ルンズ・ファーム代表: 永澤 徹


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ルンズ通信は「渡良瀬通信」で連載中です。
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