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とうとうやってしまった。 畑をやるについて、つねに念頭にあるのは、「ケガをしない」ということ。 病気をしないことももちろんだが、ケガの原因の大半はちょっとした無理や不注意。ふだんの注意でかなり防げる。 開墾時の激しい労働は別としても、トラクターや草刈り機の使用など、農作業には意外と多くの危険が隠れている。 開畑以来、畑での心得として、つねに緊張感をもち、危険を予測しながら行動することをこころがけてきた。そのせいか今まではことなきを得ていたのだが…。 朝の雑事の片付け中のこと。 今日一日の天気や農作業の段取り、作業目標などを考えながら雑事をこなしていた。 畑に出ているときほどの緊張感は、このときはもっていなかった。 それでも前日の、雨、雪、みぞれ、雪と、目まぐるしく変わった天候のために、積雪の下には固い氷が隠れていることは予測していて、十分な注意をはらいながら動いていた。 この朝は空き箱の片付け。空き箱は重くはないが両手で抱えるほどの量があった。 ルンズ・ファームは、開拓小屋前のデッキ部分をのぞいて、平らなところはない。畑も、畑の周囲もすべて傾斜している。 空き箱を抱え、スリップを警戒しながらデッキを降り、雪と氷に覆われた地面をゆっくりと歩きはじめた。 箱を抱える自分の腕で、足もとがよく見えない。 今、歩んでいる辺りは、通称「ぶどう見の丘」とよんでいる、小高く土を盛った小山の麓で、傾斜がもっともきつい部分。 車や作業機の転回場所でもあるため、轍の凹みなども重なって、小さな水たまりや複雑な傾斜が生じている。 ![]() |
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一歩、二歩、三歩目…か、転倒の恐怖感がわきおこり、そのままからだが硬直した。 雪の下はうねったような青氷だった。 足裏の毛すじ一本ほどのバランスでやっと立ち支えている。もう、一歩も足が出ない。 長靴のゴム底をとおしてスリップの予感がゾクゾクと背骨を這いのぼってくる。 冷たい汗が噴きでてきた。 危ない! 危ない! 危ない!…と、予知本能が最大級の警告を発している。 こころの奥底が焦り波立ち、全身の血がドクドクと音立てて逆流している。 このとき空き箱を捨てるべきだった。 しかし現実はそうしなかった。 足もとをよく見ようと、抱えた箱をからだを少し捻りながら右側に移した。その瞬間、左脚が、つっと滑った。 アッという間もなく、転倒。…すればよかったのかもしれない。 一瞬、左脚を踏んばってしまった。 途端、「グ、グ、グ、グ」といういやな音が膝あたりの筋肉から聞こえ、同時に爆発したかのような激痛が全身を走った。そして転倒。 この間、どれほどの時間だったのか。 自分ではスローモーションの映像のように記憶されているが、きっと一瞬のことだったに違いない。 転倒を回避しようと本能的にとった行動だったが、その結果は最悪だった。 雪に倒れたまま空をみていた。 高い空を鳶が舞っている。 二十分もそうしていただろうか。ようやく激痛の余韻が静まってきた。 思いついて、そろそろとからだを動かし、他のケガの有無を点検した。 右の、肩、肘、膝に痛みがあるが、動く。損傷はどうやら左脚だけですんだようだ。 (良かった…)と、空に思った。 決して油断はなかったが、いまだに日常の動きさえままならない影響の大きさを考えると、悔やんでも悔やみきれないものがある。 ルンズ・ファーム代表: 永澤 徹 |
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