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 WT渡良瀬通信、今号からは「渡良瀬通信」と、おしゃれ文字で新たなタイトルとなるこの本の、私の原稿締切りの日は毎月十日。
 今月分の原稿も、ケガをした膝の回復が長引いて埼玉の家で読書三昧の日々をおくるなか、あり余る時間を使い、いつもよりずっと丁寧に書いてその日に備えていた。
 原稿はもう八分どおり出来上がっていて、あとはほぼ一カ月ぶりに訪れる赤城の畑の様子を書き加えれば、それで完了のはずだった。
 そのたいせつな原稿が、まったく思いもよらないミスで消えてしまった。
 今回のように時間に余裕のあるときこそ、締切りよりもずっとはやく原稿を送って、いつも遅筆でご迷惑をかけている、編集長やスタッフの方たちに安心してもらおう…そう思って、準備してきたのだが。
 畑から帰った、翌朝。
 書くべきことはすでに決まっていた。このままいっきに仕上げて送稿すれば、なんと締切りの三日前。金メダル的記録の早出し原稿だ。(たかだか三日のことなのだけど、毎月のこととなると、これがなかなか…のことなのです)
 ファックスの向こうにうかぶ、編集室のみなさんの喜びにあふれた光景を想像しつつ、バンザーイ!ヤッター!と、興奮しながらワープロのスイッチを入れた。
「………」
 ウン…!アレレッ!……どうしたんだ?
 出るはずの画面が出ない。
 あのたっぷりと書かれた文章の塊がでてこない。
 かわりに、画面の真ん中にたった一行。
「バックアップがされていません。文章は消去されました…」。
ケガのち読書三昧  ガッーン。ガガーン。顔面蒼白…。
 何としたことか。こともあろうにワープロの、文章メモリー電源のバックアップができていなかったようだ。
 自分はいま使っているワープロが好きで、ずっと愛用している。いつから使いはじめたのか記憶もないが、もうかるく二十年ちかくにはなるだろう。ながい使用で自分の手同様になり、目をつぶっていても操作できる。
 その間─〜二回取り替えたバッテリーが、また古くなっていたのだろう。充電性能が衰えていたのだ。
 そうだ…そういえば、ふだんは電源コードをコンセントにつないだままにしておいたのを、このあいだ、コンセントの口がたりなかったので外したっけ。そうか、それでバッテリーに充電できなかったんだ…と、納得した。
 家族からはたびたび、いまどきワープロとはねぇ、しかもだいぶ古いし…。パソコンならば送稿も一瞬だし、なにかと便利なのに、などと、言われ続けているのだが…。これでまた言われてしまうなあ。
 しかしそんなことよりまず現実。締切りはすぐそこ。
 かくしてまた、余裕のはずだった締切りに追われての「格闘」が始まった。
(予定は未定…夢みてい〜)はるかむかしに、何かの拍子におぼえたそんな調子言葉が、焦る胸の底にむなしくよみがえる。
 ところで、決して負け惜しみではないが、今度のケガではよいこともあった。本が読めたことだ。
 最初は、時間のあるときにこそじっくりと、と思い、栽培や醸造の本を読み始めたのだが、なかなかあたまに入らない。やはり傷のいたみが影響しているのかな…と思い、じきに諦めて前から読みたかった本にした。
 白石一郎、澤田ふじ子、池波正太郎、三好京三、内田康夫、宮部みゆき、三浦綾子、山本一力、北原亞以子、津本陽、宮城谷昌光、司馬遼太郎、宮本輝。
 面白かった。読後、なんだか世の中ゆかいになって心身爽やか。と、いうわけで今月はこんなところでお許しを。

ルンズ・ファーム代表: 永澤 徹


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ルンズ通信は「渡良瀬通信」で連載中です。
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