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 大雪でたいへんな冬だったのに、今年の桜はずいぶんと早かった。
 この時期になるといつも、日本人はよほど桜が好きな民族なのだなぁ…とつくづく思う。
 年が明け小正月を過ぎれば、空の青と雪の白に映えて、鮮やかな黄のマンサクが咲く。
 マンサクを追いかけるように臘梅(ロウバイ)が花開く。
 ロウバイは花色もいいが、やるせないように甘く、それでいて背筋がのびるほどの香気が魅力だ。閉ざされてきた季節が、あの香りでさっと開かれるような気さえする。
 そして紅梅、白梅、桃とつづき、低木の木瓜や沈丁花、連翹(レンギョウ)など、さまざまな花が一斉に咲き乱れる。
 そのようにつぎつぎと見事な花が咲いていくのに、人々に桜ほどの関心はない。
 桜の季節が近づくと、天気予報の時間やワイドショーなどで、毎日のように全国の開花時期を予想し、、あれこれ説明している。
 大きなお世話だと思う。花などは、自分自身のなかで、あるいは身近な人とのさりげないやりとりのなかで、
「ああ、咲いたな」とか、「咲きましたねぇ」とかがいいのだ。
 肌で感じる寒さや暖かさ、風の匂いなどで、
(まだまだかな…)とか、(そろそろかな…)などと、こころおもいめぐらすことが楽しいのである。
 いい大人が、寄ってたかって口角泡を飛ばしながら、まるでそれが一大事のように、「その日」を数えているなんて本当にどうかしている。
 どうしてもというなら、知りたい人に対してのみ、「どこどこで教えてくれますよ」くらいでいいのだ。
花・雑感  人々から思いめぐらす機会を奪い、たんに機械的に「その日」のみを教えこんでいくことは、親切・サービスのようでいて、実は、人々の情緒や感性の溌剌さを損なうことにならないだろうか。
 ともあれ、桜の花色や木の姿、咲き方、散り方などが、よほど日本人の好み、美意識にあっているのだろう。
 時期もちょうどよい。
 冬の抑圧された色彩や空間から解放され、沈丁花などの甘い香りをのせたなま暖かい風が頬をなで、駘蕩たる気分に充ち溢れる季節。桜はそういった気分によく似合う。
 艶やかでいながら凛々しく清々しく、またある種の妖しさをも合わせ持つ桜は、さまざまな物語性に富み、いままでもこれからも、人々とのつよい絆を保ち続けるのだろう。
 しかしよくみてみると、ここにも世代の壁が広がってきているように思う。
 自分が生まれたころには、桜は農事と深い関連があった。子供のころのうろ覚えだが、サクラのサは田の神に捧げる稲で、クラは神の座(クラ)のことだったように記憶している。
 田や畑を見下ろす神社や、野道の辻などには必ずといっていいほど、桜が植わっていた。
 花が咲けば、近所の家がご馳走を持ち寄って近くの花の下に集まり、ゴザを敷いて花見の宴を開いた。
 いつだったか、伯母や従兄弟たちとトラックをもちだし、荷台の上にゴザを敷いて、垂れ下がる桜の枝花に埋もれるようにして花を楽しんだ思い出がある。
 桜の咲き具合で田や畑の作業の目安にした。ルンズ・ファームでは畑の南の老桜をみて、今でもそうしている。
 花を尊敬し愛でる深い趣をもったこころを育てず、ただいたずらに、桜だ、花見だ、宴会だ、と大騒ぎをあおるような風潮は、もうこのへんで終わりにしたほうがいい。
 静かなこころで花や自然を愛で、生きとし生けるものに思いをはせる、そのようなこころの在りようを育てることこそが、今、とても必要な時代になっているのではないか。

ルンズ・ファーム代表: 永澤 徹


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