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 収穫が終わった。
 収穫直後の畑が自分は好きだ。殊の外ひっそりと落ち着いて、全体が透明感のある 空気に覆われ、超然とした雰囲気があたりに漂う。その光景はまさに神々しいほどで ある。大きな仕事を終えたぶどう樹たち一本一本の、深い安堵が醸しだす現象なので あろう。
 収穫の喧噪が途絶え、自分のほかにはだれもいない畑にじっと向き合う時が、一年 で一番の至福の時である。感謝を口にし、来年の無事をお願いする。あとはもうここ ろのおもむくままに畑を眺めながら、脳裏に去来する、この一年のあれこれに、懐か しく浸るばかりである。
 すっかり黄葉した葉は、陽光に照り映え、空の青を透かして見せながら、気まぐれ な晩秋の風にふるえている。
 樹の上部の、二番花、三番花の実は、立派なぶどうの体を成しているが、収穫され ずに残されている。夏の中途に咲いた花が結実したもので、太陽の光を浴びた時間が 少なく、色やかたちは熟したようには見えても、食べてみればいまひとつ美味しくな いからである。旺盛な食欲で、散々にぶどうを食い荒らした鳥たちでさえも、この実 は食べない。
 が、今年はどうだろうか。例年ならばこの実はそのまま朽ちていく。しかし今年は 野山に彼らの食べ物がほとんどない。「背に腹は替えられぬ」と、多少のことは我慢 して、この実を食べるかどうか、とても興味のあるところだ。
 間もなくぶどうは休眠期に入る。大陸からの木枯らしが、谷川連峰の稜線を越えて 吹き荒れれば、葉は、ひとたまりもなく吹きちぎられ、あっという間に裸木になって しまう。

ぶどうづくり百姓だ。  剥き出しになった鋭い梢の先には、カエルやらトカゲやらが串刺しになる。モズが せっせと蓄える、冬を越すための餌である。このころにはもう、ぶどうは深い眠りに ついている。
 はなしを先延ばしにしてきたが、この辺で報告しなければならないだろう。この秋 の収穫量についてである。
 03年に初めての収穫をしてから、04年、05年と、毎年順調に収量が増えた。04年は 前年のおよそ4倍。05年も前年のおよそ4倍だった。
 今年もそれに見合った目論見をしていた。が、結果は大違い。前年の10分の1だった。  原因については三つほど思い当たることがある。すべてが天候に起因していること だが、花芽の芽吹き時と開花時の雨と大風。その後の長雨と日照不足。
 しかしこれだけではあるまいと思っている。まだなにかきっとあるのだ。それが何 かを、いま必至に考えている。
 思ったような収穫が得られないということは辛いものだ。もちろん、経営にも大き なダメージがあるが、それよりもなによりも、一年間、考えに考え、知恵をしぼり、 からだを張って頑張り抜いたことごとが、的外れであった、無駄であった、というこ とが、辛い。
 なにをどう考えようと、いま、己が手にした収穫物のみが、この一年の結果なのだ。 それしかない。あれこれ思いめぐらせ、ふと気が付くと、それこそ啄木ではないけれ ど、じっと己のが掌に見入っている。
 そんなとき自分を勇気づけてくれるのが、「知恵を絞り、ただひたすらに物事の成 就にむかって挑む人間は美しい」という言葉だ。
 いつだったか、なんの本だったか忘れたが、そのようなことが書いてあった。以来、 こころが挫けそうになると、この言葉が支えてくれる。
 うまいワインを造って、家族や仲間、みんなが喜ぶ顔が見たい、そう願って、ぶど うづくり百姓として、自然の中に生きることを決めたのは、自分だ。また明日から、 知恵を絞り、ただひたすらに頑張るしか外に、自分の生きる道はない。

ルンズ・ファーム代表: 永澤 徹


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