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光る海が見える。沖合いには、海を根っこに、巨大な入道雲が、躍動しながら天を さして沸き立っている。 目前には、淡いピンクの花を咲かせる胡麻畑が視界いっぱいに広がり、よく揃った 花の穂が、海から吹きよせる風にさざ波のように揺れている。 毎年、夏になると決まって訪れた、宮城県南部の海沿いにある、母の実家の縁側か らの風景である。 自分はこの風景がとても好きだった。幼子なりに、美しいと思い、穏やかだと感じ、 心地好かった。胡座に座った祖父の膝にまたがって、いつまでも飽きることなく見入っ ていた。 あの頃から半世紀以上の年月を経た。今でも折にふれ、懐かしく思い出す。海の色、 入道雲、胡麻の畑、空気の匂い…。 記憶の中の風景をたどるとき、決まって祖父の声音も蘇る。 「トオル。あのナスもなぁ、キュウリもなぁ、地面の上にあるのは手や足だ。だいじ な頭や心臓は土の中にあるんぞ。だから土は大事に大事にしないとなあ」 「人のいのちはなぁ、他のいのちの積み重ねだぞ。豆でも、菜っぱでも、魚でも、み いんないのちだぞ。こころがあるんぞ。それを丸ごと食べて人は生きるんじゃぁ」 膝にまたがる幼い孫の耳元で話す、明治生まれの祖父の言葉は、訛りもつよく聞き 取りにくかったが、なぜかよく理解できた。 母の実家の縁側からの風景と祖父の教えが、自分の、こころのノートの最初のペー ジを、大きく占めている。 いつか農業をやりたい…という想いは、この頃から育まれたのだと思う。こころの底 にはいつも、美しく広がる畑があった。 ![]() |
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今、自分は、その農業に就いている。半世紀以上もの間をおいて実現した。 畑は、こころの底の畑がそのまま映ったように美しい。穏やかな雰囲気が漂い、しっ とりと潤いのある空気が満ちて、とても心地好い。大事な土も、汚していない。 早いもので、ルンズ通信も今号で74回目。年数にすると6年3ヵ月になる。この年月 は、2001年1月1日に誕生した、畑の歩みそのままの、時の流れである。 ずっと憧れ、ようやく実現した農業であったが、今日までいろいろな出来事があっ た。 農業の厳しさ、辛さ、苦しさも、限りなく経験した。農村や農業を取り巻く、時代 錯誤とも思えるような、理不尽な事毎が未だ存在することも知った。 しかし、そのような苦難に遭遇するたび、家族や友の深い想いや暖かさが、励まし となって身に染みた。 畑は今、中途半端だった冬と早すぎる春とが、綱引きをしている。草木もぶどうも、 自分たちの立ち居振る舞いに、どうしたものかと戸惑っているかのようだ。 厳しくもやさしくもある自然。自然のなかで否応もなく、小さく無力な自分を思い 知らされ、それでもむしゃぶりついて生きていく。 草や木にもこころがある。語りかければ応えてくれる。自然とともに生きる農業と いう仕事は、何と豊かなことか。 人生の四季は一生の間に何回巡るのだろう。自分は今、冬の季節にいる。だが、冷 たく辛いという意味ではない。やがて来る春を待つ、言わば、雌伏のときという意味 だ。 畑を拓くとき、ぶどうを育てることとは別に、ある目的をもった。ぶどうや草木が、 花咲く春のために厳しい冬に力を溜めるように、自分もまた、目的を果たすという春 が、順調に巡ってくるよう祈りつつ、力を溜めている。 冬来たりなば春遠からじ、信じた道を行けばいい…。 ● ● ルンズ通信は一先ず今回で終わります。この次は、ルンズの畑に大きな春を迎えた とき、ご報告致します。皆様ありがとうございました。お元気で。 ルンズ・ファーム代表: 永澤 徹 |
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